2007年3月アーカイブ

 俺が一人で祭を楽しんでいると由紀が
「ガルムー」
と言いながらやってきた。よおとあいさつを返すと
「あのショー、見に行かない?」
と悩殺笑顔で言ってきた。こいつ、こうすれば俺が断れないのを見越してやってんじゃねえか・・・ではなく、由紀の事だ、そんな事全く気付いていないんだろう。美しさだけでなく、天性の素晴らしいかわいげまで持つ女を俺は由紀以外に知らない。
「いいぜ。」
と、返事をした。
 月に叢雲花に風とはこのことで由紀との楽しいひとときはそう長く続かなかった。うるさいのに出くわしたからだ。
「デート中なのお?」
うるせえよ。お前の方こそデート中だろうがシグ。そう言ってやると例のうるさい女は俺のふくれっ面に尻尾を振りながら悪戯っぽい笑顔を向けてきやがった。
 由紀が犬も食わない喧嘩には無関心でショーに魅入り、ファルコンはひたすらおおらかに笑っている。そのうち四人ともショーに魅入っていた。
 超人族じゃなきゃあんな真似はできないだろう。超人的とはあれを指すのだ。
 このショーは春祭り恒例行事だという。イブ様も春祭りに来ておられる。カトリーナさんと彼女の親友トートさんもいる。レンジャーの専務殺人隊員トート、無口無表情女トートだ。ふたりは同居しているらしい。それにしてもカトリーナさん、そんな無口無表情な人を相手によくそんなに陽気に話せるもんだな。
 ついでに言うとコルビに惚れるという変わった趣味をお持ちの方アルタイルが彼女と一緒なのも見えた。
 それからジャックという茶髪の男の人がギターを弾きながら歌っているのを聴いた。由紀はとても真剣な顔をしていた。ジャックさんのギターを弾く手を凝視している。
「弾いてみるかい?」
ジャックさんが由紀に訊いた。由紀は少し考えてから頷いた。そういえば以前由紀の家に行った時、彼女の部屋には使い古したギターがあったっけ。
 由紀の演奏もなかなかのものだった。共通語の歌だった。由紀が少し哀愁を漂わせているように見えたのは俺だけだろうか?
 夜が更けてみんなはしゃぎ疲れ、それぞれ寝に行った。部屋にファルコンがいないと思ったら外でシグと二人きりで何か話しているのが窓から見えた。だからお前の方がデート中だろ、シグ。
<解説>
カトリーナの名前の由来はハリケーンからです。天性の素晴らしいかわいげとは宮崎あおいみたいな感じのやつです。(エラノールは宮崎あおいが好き)