2007年2月アーカイブ

眠たそうに目をこすったりあくびをしたりしながら周りの家を見渡すとすでに住人達は寝ているのが分かる。もう夜中だ。
「そんな眠たそうな顔して歩いてると転んじゃうわよ?」
愛想の良さそうな若い女性の声が聞こえた。振り向くと黒に少し茶色がかった髪を持つ女性が立っていた。(若くて美しいのは超人族なので言うまでもない)ここの住人だろう。
「館に行くんだったら少し道が違うわ、由紀ちゃん。」
眠気をこらえながら歩くうちに道を間違えたらしい。由紀はこんばんはと挨拶をした。
「あ、私はカトリーナ。よろしく。」
女性は少し遅れて自己紹介をした。それから二人は一緒に歩いた。
「コルビに彼氏がいるって本当なんですか?」
由紀が訊いた。
「え?ああ、うちの息子がコルちゃんと仲がいいわ。」
カトリーナは少し笑いながら話した。
「コルちゃん?」
由紀は聞き返した。
「コルビのことよ。」
カトリーナは答えながら左手に少し触れた。
 館に着くとまず洗面所に行って顔とジャケットについた血を洗った。部屋に入るとシグとコルビは熟睡中だった。ジャケットを脱いでベットに腰かけた。
「片付いた?」
由紀に気付いたらしいシグが訊いてきた。
「片付いたよ。ごめん、起こしちゃった?」
「いや、たまたま目が覚めただけ。」
シグが答えた。超人族でしかも経験豊かな戦士なら起きても良さそうだが、コルビは寝ている。
「コルビ寝てるの?それとも狸寝入り?」
由紀は尋ねた。
「寝てると思うよ。疲れてたみたいだし。名前忘れたけど強い酒大量に飲んでへべれけになっちゃってさあ、ガルムが殴り倒して無理矢理寝かしつけたんだ。」
由紀は目をぱちくりさせた。
「冗談だって。でも酒を大量に飲んだのは本当。へべれけにはなってないよ。」
シグは面白そうに笑いながら言った。
「おやすみ。」
由紀はすとんと眠りにおちた。シグは大酒のみの指揮官を少し見つめた後また眠りに落ちた。
 翌日由紀達は食堂で朝食をとっていた。
 ファルコンがテレポートしてやって来た。
「おはよう。」
あいさつする。
「由紀が第四隊に入隊することが決まったらしいよ。入隊には同意するよね?由紀。」
ファルコンが由紀達に言った。由紀は頷いた。ガルムはああそうかと一応は反応し、シグは由紀が気に入っていたらしく由紀が自分と同じ隊に入ってうれしそうだ。コルビは全く反応がなく大した感慨もなさそうに朝食を食べている。由紀はちょっと不安だった。レンジャーと言っても一体何をすればいいのだろうか?
 「まだあ?」
二人の若い女性がいる。尋ねたのは白い髪を持つ恐らく超人族の女性。
「まだよ。さっき訊いてからそんなに経ってないわ、メレス。」
答えたのは黒い髪にくりくりした大きな黒い色の目を持つ持つ超人族の女性。メレスと呼ばれた女性は退屈そうにあくびした。
「待ち疲れたよ、エステル。」
メレスが黒い髪の女性に言った。どちらかというとメレスがしっかりとした体つきをしていてエステルの方が少し華奢な体つきをしている。 
「まだ?」
メレスが訊いた。
「同じ質問を何回もしないで。」
エステルはうんざりしたように言った。
 向こうから一羽のカラスが飛んできた。
「あ、来た!」
メレスはそう言いながら飛び出していった。エステルが追いかける。カラスが地面に着地しながら人の姿に変わった。雪谷の服を着ている。そこへメレスが勢いよく抱きついた。
「あねさん!」
メレスが言う。
「苦しいわ。」
コルビは無表情で言った。エステルは抱きついたりせずに礼儀正しく挨拶した。それから二人は一緒に歩いた。
 春のお祭りの準備に人々は忙しく働いていた。仕事のある第一隊以外のレンジャー達も参加している。コルビ達三人も参加することにした。
 雪谷の春祭は大盛り上がりだ。大ご馳走に楽しいショー。誰も彼もが楽しんでいる。コルビはアルタイルと楽しみ、ガルムは基本的に単独、シグはファルコンと一緒、そして由紀は女性たちにかわいがられていた。
 どうやらカトリーナは女性たちのリーダー格らしい。最年長であるだけでなく、そういう気質があるのだろう。
「ねえ、あれ見に行かない?トート。」
カトリーナが話しかけたのは黒い髪の女性だった。腰に片刃の剣をさしている。その女性は陽気な人ぞろいの雪谷では珍しく無口無表情だ。コルビのように感情を隠しているのではなく感情がもともとないように見える。女性は無表情なまま首肯した。
 トートは由紀の視線に気付いて振り向いた。灰色の目にはあまりに喜怒哀楽がなく、一体いつもは何を考えて何をしているのだろうと由紀は疑問に思ったほどだ。少し視線をそらして振り向くとトートは向こうの方に遠ざかっていた。


<解説>
トートって誰かに似てません?